お風呂場にて



奈美を家の中に連れ戻し、ワザと明るい声で言った。


『ねっ お風呂借りよっ!』


『え・・・?』


『汚れちゃったし、シャワーでも浴びよう。』


浴室を探す前に玄関ホールに言って、

奈美の着替えが入ったバッグを持ってきた。


『ここかなぁ〜。。。』


扉を開けると洗面所で、蛇口があった。


『まずは手を洗おう。』


そう言って蛇口を開ける。


すると、赤黒い水が流れ出てきた。


『きゃぁっ! 血!!』


『違うよ、サビだよ、サビ!』


赤黒い水は出尽くし、普通の透明の水が出てきた。


石鹸を探す。

浴室の方を奈美に探してもらう。

壁の棚を探す。


『ダメだ。見つからない。』


顔をあげると、鏡に映った奈美の顔が見えた。


(キレイだ・・・。)


奈美の顔に見とれていた。


『石鹸あったか?』


『ないー。』


浴室から奈美の声が聞こえた。



ギョッとした。

浴室にいる奈美の姿が、この鏡に映るはずがない。

さっき鏡に映っていたのは一体・・・。


『ねぇ 石鹸あった?』


『い、いや、見あたらない。。。』


さっきの鏡のことは奈美には黙っていることにした。


『ここかなぁ〜。』


奈美は、洗面台の下の棚を開けた。


ウッ。


腐った泥のような悪臭がいっせいに広がった。

息を止め、棚の中を探す。


先が黄色くなった歯ブラシ。

蓋があき、ペシャンコになった歯磨き粉のチューブ。

シャンプーとリンス。。。


大きな薬箱を奈美に持ち上げてもらい、その下を探してみようとした。


薬箱を持ち上げると、下から

羽根の生えた油照かりした黒い虫が一斉に這い出た。


『きゃあああっ ゴキブリ!!』


奈美は薬箱を放り出し、悲鳴をあげた。

ゴキブリは、棚の後ろや扉の隙間に逃げていった。


『もういない?』


『あぁ。。』


『あっ 薬箱・・・』


見ると薬が散乱している。

それを奈美は一生懸命拾い始めた。


棚の中を調べると、木箱に入った石鹸を発見した。


『ねぇ・・・ 見たこともない薬がいっぱいあるよ・・・。』


後ろから奈美が話しかけた。

好奇心が湧いて、奈美にいくつか薬を見せてもらった。


奇妙な主成分の薬が多い。

しかし、どれも火傷の薬らしい。



石鹸も見つかったので、奈美にシャワーを浴びるようすすめる。


奈美はバッグを持ち、浴室に入る。


『あらっ この戸、閉まらないわっ・・』


奈美はガタガタと戸を揺らした。

しかし、閉まらない。


『絶対覗かないでね!!』


そう釘をうち、奈美はシャワーを使い始めた。




キャアッ!!


浴室から奈美の悲鳴が聞こえた。


『どうした奈美!!』


浴室からタオルを巻いた奈美が飛び込出してきた。


『タオルなんて持ってたのか・・・。』


『そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!』


見ると、浴室の中は湯気がたくさん立ちこめていた。


『急に熱湯になって・・・。』


お湯はまだシャワーから流れ出ている。


コックを閉めようとしたが、熱くて近づけない。


『俺、ボイラー室を見てくるよ!』



ボイラー室は以外と簡単に見つかった。

中はとても熱かった。 サウナかサハラ砂漠のようだ。


水温設定のツマミが100度のところを指していた。

40度くらいまで温度を下げた。

しかし、ボイラー室内の圧力は下がらない。

安全弁が壊れているようだ。いや、壊されているのか・・・。


洗面所に戻る。

まだ湯気が立ちこめていたが、お湯は適温になっていた。


『もう大丈夫だよ』


奈美は再度お風呂に入った。



『なぁ 一緒に入ろうか?』


奈美は予想外の答えを返した。


『ちょっと待って・・・。』


何事も言ってみるもんだな。。。


『まだか?』

『もう少し。。。』


『・・・いいよ。』


喜々揚々と浴室の戸を開けて、中に入る。



バシャァッ!!



顔に思いっきりお湯をかけられてしまった。。。

世の中そんなに甘くないものである。。。

ちなみに、奈美はすでに服を着ていた。



続いてお風呂に入ることにする。


『ねぇ このお風呂って水はけが悪くない?』


確かに、床に水が貯まっていってる。

排水溝を探した。 しかしどこにも見あたらない。

浴槽と壁の隙間が怪しかったので、覗いてみる。



うわっ!!


水に浮いた昆布・・・ じゃない、長い髪の毛がたくさん漂っていた。

この毛が原因で、排水溝が詰まっているらしかった。


意を決して髪の毛の中に手を突っ込んだ。

何本かはスルリと抜け、また何本かはブチブチと切れるような感触だった。


ザバッと髪の毛を取り出し、洗面所へ行く。


キャッ!

奈美は小さな悲鳴をあげた。


『これが詰まってたんだ。』


髪の毛を洗面台の横のゴミ箱に捨てた。

壁にかかったペーパーホルダーから紙を取り出し、

腕についた髪を擦り落とす。


『どぉ? 流れていってる?』


『うん。』


貯まっていた水が流れていく。


再度お風呂に入った。